「おい、そこ。」
昼休み。
自販機にてお買い物中のオレに
固有名詞どころか人間用の代名詞も皆無な声がかけられた。
オレはおいでもそこでもねーよとツッコミ入れるのも
もう面倒な相手なのは声で分かっていた。
「…何か用ですか会長。」
「何だ、今日は反応薄いな。つまらん。」
ツッコミ待ちかよと言いたくなったが
あまりにこの人の思い通りになるのもむかつくので、
ため息でささやかな抵抗に変えることにした。
「で、ご用件は?」
するとさらりと、
これも最近日常になってしまった非常識な答えが帰ってきた。
「いつも通り口説きだ。いい加減オレのものになれ。」
「…それこそいい加減諦めてください。」
そう、これが最近のオレの不本意な日課である。
何を思ったかこの生徒会長、
二年の春頃からオレに愛の告白を続けているのである。
ついでにまだ食事と会話と呼吸以外にほとんど使用したことのない唇もしっかりもらわれてしまっている。
殴り倒してやろうかと思ったが、生徒会長を問題集団の一員が殴るのはさすがによろしくない。
という正気か事なかれ主義か判断のつきにくい思考にとどめられた。
そう。それ以外にはない。
あれから何度口説かれキスされても拒まない理由は
ほかにあるわけはない。
あまり顔に出さないようにぐるぐると考えていると、
少しばかり機嫌を損ねたのか、
会長は見栄えのいい指で俺の顎を持ち上げると
これまた端正な顔で俺を睨みつけていた。
「他の事考えてるんじゃねえよ。お前。」
「……。」
オレはすぐには言葉を返さなかった。
それを不審に思ったのか、会長は眉をかすかに顰める。
だがこれ以上はオレも相手をしてるわけにはいかん。
昼休みも終わることだしな。
「とりあえず授業始まるんで、オレはこれで。」
「…っ。」
あれ、何。
少し傷ついたような…めずらしい顔してんな。この人。
「…オレのこと好きなくせに。お前。」
…はあ。
言うに事欠いてそこか、意外と芸がないな。
だったらオレも言い返しておこう。
「オレの名前も呼ばないくせに。アンタ。」
「…。」
お、今度は驚いている。
めずらしー…あ、いやすぐいつもの笑い方に戻ったな。
…?でもどこか違うような…。
「…お前だって……キーンコーンカーンコーン…。」
最後の言葉は予鈴で聞き取れなかったが…まあ時間もないことだし…。
「じゃあオレはこれで。」
オレはその場を去った。
今度は引き留められなかった。
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「オレの名前も知らないくせに。」
拒まずに期待させて、突き放すのに切り離さずに
離れないのに近づかない。
なんて奴だと、オレはひとつため息をついた。
そしてそれでもまた会いたい自分にもうひとつ。
ため息は止まらない。
end
会→(←)キョンです。
強気に出てますが、実は不安な会長でした;
キョンも無自覚ですが会長が好きです。これでも。
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